人材紹介の手数料とは、紹介した求職者が入社したときに紹介会社が採用企業から受け取る成功報酬です。相場は理論年収の30〜35%で、理論年収600万円なら180万〜210万円が目安。専門職・ハイクラスでは50%以上になるケースもあります(出典: doda DSJ/マンパワーグループ)。法令上、手数料には「上限制」と「届出制」の2方式があり、賃金額の11.0%という上限が課されるのは上限制のみです。相場水準の料率は、手数料表を厚生労働大臣に届け出る届出制でのみ設定できます(出典: 厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」)。
「手数料は35%が相場」——人材紹介の世界でよく聞く数字です。しかし、その35%がどこから来ていて、法律上どこまで上げられるのか、理論年収に何を含めてよいのかを、条文まで遡って説明できる人は多くありません。開業直後の紹介会社が手数料表の届出でつまずいたり、相見積もりで料率を削られたまま根拠を示せずに終わったりするのは、たいていこの部分が曖昧だからです。
本記事は、人材紹介の手数料を「相場・法令・契約実務」の3方向から整理するリファレンスです。職業安定法上の2方式、理論年収の定義、職種別のレンジ、支払いタイミング、返戻金の設計までを扱います。なお「自社の決定単価をどう設計し、どう引き上げるか」という経営視点の話は決定単価とは|人材紹介の1成約あたり売上を設計する考え方と上げ方で、売上全体の逆算は人材紹介のKPI管理 完全ガイドで扱っています。本記事は「料率そのものがどう決まるか」に絞ります。
人材紹介の手数料とは(定義と相場)
人材紹介の手数料とは、紹介した求職者が採用企業に入社した時点で、紹介会社が採用企業から受け取る成功報酬です。有料職業紹介事業として厚生労働大臣の許可を受けた事業者だけが徴収でき、金額は「理論年収 × 手数料率」で算定されるのが一般的です。求職者から手数料を取る形ではなく、採用企業が支払う——この構造が、日本の人材紹介の基本形です。
相場は理論年収の30〜35%です。専門職・ハイクラスの領域では50%以上になるケースもあります(出典: doda DSJ/マンパワーグループ)。理論年収600万円の求職者なら、料率30%で180万円、35%で210万円が1件あたりの手数料の目安になります。
ここで押さえておきたいのは、この30〜35%という数字は法律が定めた基準ではなく、市場の慣行として形成された水準だという点です。法令が定めているのは後述する「上限制手数料」の枠だけで、その枠は11.0%と、相場よりはるかに低い水準にあります。つまり相場と法定枠は別の話であり、両者を混同すると「35%は違法なのでは」という誤解が生まれます。ここを正確に分けて理解することが、料率を語る出発点です。
手数料の2方式:上限制手数料と届出制手数料
有料職業紹介事業者が徴収できる手数料は、職業安定法第32条の3により上限制手数料と届出制手数料の2方式に整理されています。同じ事業者が取扱分野に応じて両方を併用することは差し支えありませんが、同一の者に対して併用して徴収することはできません(出典: 厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」第6 手数料)。
賃金額の11.0%が上限
免税事業者は10.3%
届出は不要(法令で額が決まっている)
求人受付手数料は1件710円が限度
届け出た手数料表の額
率の数値上限は条文に定めなし
厚生労働大臣への手数料表の届出が必要
相場の30〜35%はこちらでしか設定できない
上限制手数料:賃金額の11.0%
上限制手数料は、徴収できる額の上限が法令の別表で直接定められている方式です。紹介手数料の最高額は支払われた賃金額の100分の11.0(免税事業者は100分の10.3)に相当する額で、令和元年10月1日の消費税率引き上げに伴う改正で現行の率になりました。期間の定めのない雇用契約で同一の者に引き続き6ヶ月を超えて雇用された場合は、6ヶ月間の賃金額の11.0%か、臨時に支払われる賃金等を除いた額の14.8%(免税事業者は13.9%)のいずれか大きい額を選べます。あわせて、求人の申込みを受理した場合は1件につき710円(免税事業者は660円)を限度に受付手数料を徴収できます(出典: 厚生労働省「紹介手数料の最高額の改正について」)。
届出制手数料:届け出た手数料表の額
届出制手数料は、手数料表を作成して厚生労働大臣に届け出れば、その表に基づく額を徴収できる方式です。業務運営要領は「厚生労働大臣に届け出た手数料表の額を徴収することができる」と定めるのみで、率そのものの数値上限は条文に置かれていません。ただし無制限ではなく、手数料の種類・額その他手数料に関する事項が明確に定められていない場合や、特定の者に対し不当な差別的取扱いをする場合には「著しく不当」として変更命令の対象になります(法第32条の3第4項)。また、届出をせずに届出制手数料を徴収した者は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる場合があります(法第65条第1項第2号/出典: 同上)。
この2方式の関係を押さえると、実務の風景が見えてきます。上限制のままでは理論年収の11.0%までしか請求できず、相場の30〜35%とは大きな開きがあります。したがって、相場水準の成功報酬で契約する紹介会社は、必然的に届出制を選ぶことになります。開業時に手数料表の届出をセットで済ませておくべき理由はここにあります。
なお、手数料は原則として求人者(採用企業)から徴収するもので、求職者からの手数料徴収は原則として認められていません。例外は、芸能家・家政婦(夫)・配ぜん人・調理士・モデル・マネキンの職業に係る求職受付手数料と、経営管理者・科学技術者・熟練技能者の職業で紹介により就職した賃金が年収700万円またはこれに相当する額を超える場合の求職者手数料に限られます(出典: 厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」第6 手数料)。
料率の計算根拠:理論年収とは何か
手数料の額は「理論年収 × 手数料率」で決まるため、料率と同じくらい理論年収の定義が金額を左右します。理論年収とは、内定者が入社後1年間に支給される見込みの年収額のことで、実績値ではなく契約時点の想定値を使います。
- 基本給(月給×12ヶ月)
- 固定的に支給される諸手当
- 固定残業代(みなし残業代)
- 支給が確定している賞与
- 業績連動の変動賞与
- 通勤手当・住宅補助などの実費性の手当
- 時間外労働の実績分
- ストックオプション・退職金
一般的には、基本給に加えて固定的に支給される諸手当、固定残業代(みなし残業代)、支給が確定している賞与までを含めます。一方で、業績連動の変動賞与、通勤手当のような実費性の手当、時間外労働の実績分、ストックオプションや退職金は含めないことが多い項目です。
重要なのは、理論年収の定義に法令上の統一基準はなく、正解は契約書の条項にあるという点です。同じ内定者でも、固定残業代を含める契約と含めない契約では理論年収が数十万円変わり、料率35%なら手数料に十数万円の差が生まれます。実務では次の3点を契約書で確定させておくと、後の争いを避けられます。
- 1. 算定基礎の列挙:「基本給・固定手当・固定残業代・確定賞与の合計」のように、含める項目を列挙形式で明記します。「等」で終わらせると解釈の余地が残ります。
- 2. 賞与の扱い:賞与は争点になりやすい項目です。支給実績がある場合の見込額を含めるのか、支給が確定している額のみを含めるのかを明文化します。
- 3. 内定通知書との照合手順:理論年収の根拠となる書面(内定通知書・労働条件通知書)を特定し、齟齬があった場合の調整方法まで決めておきます。
職種・年収帯別の相場感
料率は一律ではなく、職種の希少性と採用難度に応じて帯が分かれます。需給が逼迫している領域ほど料率は上がる——これが料率形成の基本原理です。ただし公表された統計値があるわけではないため、断定値ではなくレンジで捉えるのが実務的です。
相場の中心帯
上端は固定されていない。50%を超えるケースもある(出典: doda DSJ/マンパワーグループ)
| 区分 | 料率レンジの目安 | 背景 |
|---|---|---|
| 一般職(事務・販売・サービス等) | 30〜35% | 求人・求職ともに母数が大きく、相場の中心帯に収れんしやすい |
| 専門職(IT・エンジニア・医療専門職等) | 35%以上 | 採用難度が高く、相場の中心帯を超える料率が設定されることがある |
| ハイクラス・エグゼクティブ | 35%以上(50%超の例もある) | 母集団が極小で代替が効かず、上端が固定されない |
| エグゼクティブサーチ(リテーナー型) | 成功報酬とは別建て | 着手金・中間金・成功報酬の分割払いが一般的で、料率比較の土俵が異なる |
表の最終行にあるリテーナー型(コンティンジェンシー=完全成功報酬型に対する、着手金を伴う契約形態)は、成功報酬の料率と直接比較できません。着手金・中間金・成功報酬に分割して受け取るため、成約しなかった場合でも一定の収益が確保される代わりに、1件あたりの成功報酬部分は相対的に低く設計されることがあります。相場を語るときは、同じ課金形態同士で比べるのが原則です。
支払いタイミングと請求実務
料率と同じくらいキャッシュフローに効くのが、いつ請求でき、いつ入金されるかです。人材紹介の成功報酬は、一般的に「入社日」を基準に発生します。内定承諾日でも初出社日でもなく、契約書に定めた入社日に手数料請求権が確定する、という設計が広く使われています。
| 工程 | 一般的な扱い | 紹介会社側の論点 |
|---|---|---|
| 手数料の発生 | 契約書に定めた入社日 | 入社日の変更・延期時の扱いを条項で決めておく |
| 請求書の発行 | 入社日の属する月に発行 | 入社確認の証憑(入社連絡・在籍確認)の取得フローを固める |
| 支払サイト | 月末締め翌月末払いなどが一般的 | サイトが長いほど運転資金の負担が重くなる |
| 返戻の発生 | 早期退職の判明時 | 既に入金済みの分を返金するため、資金繰りへの影響が大きい |
この流れが意味するのは、決定してから入金までのタイムラグが数ヶ月に及ぶということです。仮に4月入社の案件を4月末に請求し、月末締め翌月末払いなら入金は5月末。決定から入金まで、決定日によっては2ヶ月近くかかります。人材紹介は在庫を持たないビジネスですが、CAの人件費は毎月出ていくため、決定のタイミングと入金のタイミングのズレが、そのまま運転資金の必要額になります。
したがって紹介会社の経営管理では、「決定した金額」と「入金される金額」を別の指標として追う必要があります。選考中の案件が確度別にいくらの見込みで、いつ入社し、いつ入金されるか——ここを月次で読めているかどうかが、採用計画や資金調達の精度を分けます。この読みを表計算で管理すると案件数が増えた時点で破綻するため、人材紹介向けのCRMでは選考の進行状況から売上を予測し、予実と週次の推移を管理する機能が用意されています。たとえばEmproには、KPIをリアルタイムに可視化するダッシュボードと、確度別の加重で着地見込みを読む売上予測機能があります。
返戻金(返金規定)の相場と設計
返戻金とは、紹介した人材が早期に退職した場合に、受け取った手数料の一部を採用企業に返金する取り決めです。返金規定・返戻規定とも呼ばれ、人材紹介契約にはほぼ例外なく盛り込まれます。採用企業から見れば早期離職リスクのヘッジであり、紹介会社から見れば確定したはずの売上が後から取り消される条項です。
返戻率は在籍期間に応じて逓減する段階設定が一般的で、入社後1ヶ月以内なら80%、1〜3ヶ月以内なら50%といった水準が広く使われています(出典: doda DSJ/マンパワーグループ)。3ヶ月を超える期間については、一定率を残す契約から返戻対象外とする契約まで幅があり、6ヶ月を超えると返戻対象外とするのが通例です。
| 在籍期間 | 返戻率の目安 | 紹介会社側の影響 |
|---|---|---|
| 入社後1ヶ月以内 | 80%程度 | 手数料のほぼ全額が消える。1件の決定が実質ゼロになる |
| 1〜3ヶ月以内 | 50%程度 | 半額返金。決定単価が半分になったのと同じ意味を持つ |
| 3〜6ヶ月 | 0〜30%程度、または対象外 | 契約により差が大きい。交渉余地が残る領域 |
| 6ヶ月超 | 対象外が通例 | 返戻リスクが消え、売上が確定する |
返戻規定を設計するうえで押さえたい論点は3つあります。第一に、返戻の適用除外です。会社都合の解雇、事業所の閉鎖、採用企業側の労働条件の相違など、求職者側に起因しない退職まで返戻対象にすると、コントロール不能なリスクを抱えることになります。除外事由を明記しておくのが実務の要点です。
第二に、返金ではなく代替人材の紹介(フリーリプレイスメント)で対応する選択肢です。現金を返さず一定期間内に代替人材を無償で紹介する形にすれば、キャッシュアウトを避けられます。ただし代替紹介の期限・回数・不成立時の扱いを決めておかないと、義務だけが残り続けます。
第三に、返戻規定は料率とセットの交渉材料であるということです。返戻期間を長く・返戻率を高く飲むほど、実質的に受け取れる手数料は下がります。相見積もりで料率だけを比較されたときに「当社は料率35%だが返戻期間は1ヶ月」「他社は30%だが返戻期間は6ヶ月」といった条件全体の比較に持ち込めれば、料率の数字だけで負ける展開を避けられます。返戻を差し引いた後の実質的な1件あたり売上をどう設計するかは、決定単価とは|人材紹介の1成約あたり売上を設計する考え方と上げ方で詳しく扱っています。
料率を守る・引き上げるための実務
最後に、契約実務として料率をどう守るかを整理します。前提として、手数料率は「相場だから35%」で自動的に決まるものではなく、届け出た手数料表の範囲内で個別に交渉される数字です。だからこそ、根拠を用意しているかどうかで結果が変わります。
- 実績データを根拠にする:決定までのリードタイム、書類通過率、入社後の定着率(返戻の発生率)といった自社の実績は、料率の根拠になります。「他社より速く、辞めにくい人を出している」を数字で示せれば、料率の議論は感覚論から外れます。
- 取扱領域を絞って代替不可能性を上げる:汎用エージェントとして相見積もりの土俵に乗ると、比較軸が料率だけになりがちです。特定の職種・業界に特化して母集団の質で差がつくと、料率が価格競争の対象から外れていきます。
- 独占依頼・優先依頼とセットで条件を組む:採用企業にとっての価値(優先的な候補者提示・専任担当)と引き換えに、料率や返戻条件を有利に設定する交渉です。一方的な値上げ要求ではなく、交換条件の形にするのが要点です。
- 課金形態そのものを見直す:完全成功報酬型だけでなく、着手金型(リテーナー)、月額型(RPO的な支援)など、提供価値に応じた課金形態を選べます。成功報酬の料率だけを議論の対象にしない、という発想の転換です。
そして、これらの交渉材料はすべて自社のデータが揃っていて初めて使えるものです。決定までのリードタイム、職種別の平均料率、返戻の発生率——こうした数字が案件管理システムから即座に出せる状態にあるかどうかが、料率交渉の地力を決めます。逆に言えば、日々の選考進捗の記録がそのまま交渉の根拠になるということです。
なお、料率・返戻・課金形態を自社の売上目標にどう接続するか(=1件あたりいくらを取りに行くべきか)は、本記事の範囲を超えます。単価としての設計は決定単価とは|人材紹介の1成約あたり売上を設計する考え方と上げ方を、売上全体からの逆算は人材紹介のKPI管理 完全ガイドを参照してください。
よくある質問
Q. 人材紹介の手数料相場はいくらですか?
A. 人材紹介の手数料とは、紹介した求職者が入社したときに紹介会社が採用企業から受け取る成功報酬です。相場は理論年収の30〜35%で、理論年収600万円なら180万〜210万円が目安になります。専門職・ハイクラスの領域では50%以上になるケースもあります(出典: doda DSJ/マンパワーグループ)。
Q. 人材紹介の手数料に法律上の上限はありますか?
A. 方式によります。上限制手数料を選ぶ場合は、支払われた賃金額の100分の11.0(免税事業者は100分の10.3)が上限です。一方、手数料表を厚生労働大臣に届け出る届出制手数料には、率そのものの数値上限が条文に置かれていません。ただし手数料に関する事項が明確でない場合等は変更命令の対象になります(出典: 厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」第6)。
Q. 理論年収に賞与や残業代は含まれますか?
A. 契約書の定義によります。一般的には、基本給・固定的な諸手当・固定残業代・支給が確定している賞与までを含め、業績連動の変動賞与・通勤手当・時間外労働の実績分は含めないことが多い扱いです。法令上の統一基準はないため、算定基礎を列挙形式で契約書に明記しておくことが実務の要点です。
Q. 返戻金の相場はどのくらいですか?
A. 返戻金とは、紹介した人材が早期に退職した場合に手数料の一部を返金する取り決めです。在籍期間に応じて逓減する段階設定が一般的で、入社後1ヶ月以内なら80%、1〜3ヶ月以内なら50%といった水準が広く使われています(出典: doda DSJ/マンパワーグループ)。3ヶ月超は契約により幅があり、6ヶ月を超えると返戻対象外とするのが通例です。
Q. 人材紹介の手数料率は交渉できますか?
A. できます。手数料率は届け出た手数料表の範囲内で個別に決まる数字であり、相場で自動的に固定されるものではありません。決定までのリードタイム・定着率といった自社の実績データ、取扱領域の専門性、独占依頼などの交換条件が交渉の根拠になります。料率だけでなく返戻条件を含めた条件全体で比較してもらうことも有効です。
