フルコミッションとは、固定給がなく、報酬の全額が成果に連動して決まる完全歩合制の働き方をいいます。法令上の用語ではなく、報酬の決め方を表す実務上の呼び名です。人材紹介では①紹介会社に雇用される歩合社員 ②業務委託パートナー(個人事業主) ③自ら許可を取って開業の3形態があり、どれを指しているかで許可の要否も適用される法律もまったく変わります。①は雇用契約なので労働基準法27条の保障給と最低賃金法4条1項が適用され、報酬が完全に成果連動になることはありません。②③は労働法の保護が原則として及ばない代わりに、職業紹介を自ら事業として行うなら厚生労働大臣の許可が必要です(職業安定法30条1項)。
「フルコミッション」は不動産営業・保険営業・人材紹介など複数の業界で使われる言葉で、検索して出てくる解説の多くは営業職全般の一般論です。本記事は人材紹介業のフルコミッションに絞って書いています。一般論として押さえるべきことは最初のH2で短く済ませ、そこから先は人材紹介の業務委託・独立の話に切り替えます。
人材紹介でフルコミッションが話題になるとき、実際には性質の異なる3つの働き方が同じ言葉で語られています。この3つは報酬の受け取り方が違うだけでなく、誰の許可のもとで紹介行為をしているかが違います。ここを混ぜたまま契約すると、無許可営業や名義貸しの側に踏み込みかねません。
そこで本記事は、3形態を先に切り分けたうえで、報酬の決まり方、業務委託で紹介業務に関わるときの職業安定法上の整理、業務委託契約が「労働者」と判断される場合、副業として成立するかまでを扱います。数値と条文は一次資料に当たって記載し、出典を都度示します。なお許可そのものの要件と無許可営業の罰則は人材紹介に「免許」は必要?|免許・資格・許可の違いと無許可営業の罰則が正典です。本記事はそちらへ送り、重複させません。
フルコミッションとは
フルコミッションとは、固定給がなく、報酬の全額が成果に連動して決まる完全歩合制の働き方をいいます。「コミッション」は歩合・手数料の意味で、そこに「フル(完全)」が付いた言い方です。労働基準法にも職業安定法にもこの語は出てこず、法令上の制度名ではありません。報酬の決め方を表す実務上の呼び名だと理解しておくのが正確です。
対になるのが「固定給+インセンティブ」です。こちらは基本給が保障されたうえで成果に応じた上乗せがある形で、成果がゼロでも基本給は支払われます。フルコミッションは、この基本給部分がないという点だけで区別されます。
雇用契約のままでは「完全」歩合にはできない
ここで先に押さえておきたいのが、雇用契約を結んでいる労働者に対しては、報酬を完全に成果連動にすることはできないという点です。労働基準法27条は「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と定めています(出来高払制の保障給)。さらに最低賃金法4条1項は「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」としています(出典: e-Gov法令検索「労働基準法」27条・「最低賃金法」4条1項)。
つまり、社員として働いている限り、成約がゼロの月でも賃金がゼロになることはありません。求人票や募集要項で「フルコミッション」と書かれていても、雇用契約であれば保障給と最低賃金が下限として効きます。世の中で言う本来のフルコミッションは、雇用ではなく業務委託(個人事業主)としての契約を指しているのが実態です。この違いが、次に見る3形態の出発点になります。
人材紹介のフルコミッション3形態
人材紹介で「フルコミッションで働く」と言われるとき、実際には次の3つのどれかを指しています。同じ「成果報酬で働く」でも、契約形態・許可の所在・適用される法律がそれぞれ違います。
| 比較する観点 | ① 雇用された歩合社員 | ② 業務委託パートナー | ③ 自ら許可を取って開業 |
|---|---|---|---|
| 契約の形 | 紹介会社との雇用契約 | 紹介会社との業務委託(準委任・請負)契約 | 自分が事業主。委託ではなく自社の事業 |
| 受け取るお金の性質 | 賃金(労働基準法11条。労働の対償として使用者が支払うもの) | 報酬(業務委託の対価としての代金) | 手数料(求人企業から直接受け取る成功報酬) |
| 許可を持つのは誰か | 勤務先の紹介会社。本人はその事業の従業者として動く | 委託元。ただし自ら事業として紹介を行うなら本人にも許可が要る(後述) | 本人(法人または個人事業主)が厚生労働大臣の許可を受ける |
| 労働法の適用 | あり(労働時間・休日・解雇規制・社会保険等) | 原則なし。ただし実態が労働者と判断されれば適用される | なし(自らが事業主) |
| 収入に下限があるか | ある。労働基準法27条の保障給と最低賃金法4条1項の最低賃金 | ない。成約が出なければ報酬はゼロ | ない。成約が出なければ売上はゼロ |
| 開業時に必要なもの | なし | 原則なし(開業届等の税務手続きは別途) | 基準資産500万円以上・現金預貯金150万円以上ほかの許可要件 |
誰の許可のもとで職業紹介が行われているか
① 雇用された歩合社員
- 求職者・求人企業
- 本人(労働者)
- 紹介会社(許可あり)
勤務先の紹介会社が許可を持つ。本人はその事業の従業者として動く
② 業務委託パートナー
- 求職者・求人企業
- 本人(個人事業主)
- 委託元(許可あり)
委託元の事業として行うのか、本人が自ら事業として行うのかで結論が変わる。ここが判断の分かれ目
③ 自ら許可を取って開業
- 求職者・求人企業
- 本人(事業主)
本人(法人または個人事業主)が厚生労働大臣の許可を受ける
3形態を並べると、①から③へ進むほど保障が薄くなる代わりに、意思決定と手数料の取り分が自分に寄る構造になっているのが分かります。②が中間に見えますが、法的にはもっとも位置づけが曖昧になりやすいのが②です。次の見出し以降は、この②を中心に扱います。
③の許可要件(財産的基礎・事業所・職業紹介責任者)と申請手続きの中身は有料職業紹介事業とは|許可要件・申請手続き・年次義務と開業までの全ステップにまとめてあります。表の最終行の金額もそちらが出典です。
報酬はどう決まるか
フルコミッションの報酬は、求人企業が紹介会社に支払う成功報酬を原資として、そこから配分されるという構造になっています。したがって話は2段階に分かれます。原資がいくらか、そのうち何割が本人に渡るか、です。
原資:紹介会社が受け取る成功報酬
人材紹介の手数料相場は理論年収の30〜35%で、専門職・ハイクラスでは50%以上になるケースもあります(出典: doda DSJ/マンパワーグループ)。厚生労働省の集計では、常用就職1件あたりの手数料は約103万円でした(出典: 厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」令和8年3月31日公表。全業種・全職種の平均値であり、特定の職種の相場ではありません)。料率の決まり方、上限制手数料と届出制手数料の違い、理論年収に何を含めるかは人材紹介の手数料相場|30〜35%の根拠と法的上限・理論年収・返戻金の実務が正典です。本記事では扱いません。
配分:公表された相場データは存在しない
率直に言うと、フルコミッションの配分割合について、公表された統計や相場データは確認できませんでした。「フルコミの取り分は◯%が相場」と言い切っている情報を見かけたら、その根拠がどこにあるのかを確かめることをおすすめします。当事者間の契約で決まる金額であり、公的に集計されている性質のものではありません。この点は業務提携による送客の配分割合と同じ状況です。
公的な相場が無い以上、条件は自分で組み立てるしかありません。交渉の軸になるのは、どちらがどこまで工数とリスクを負うかです。
- 案件と求職者をどちらが供給するか:求人も求職者も委託元から渡されるのか、自分で開拓するのか。供給を委託元に依存するほど、配分は下がる方向に働きます。
- 求人企業との関係を誰が持つか:契約主体・請求主体は許可を持つ事業者です。求人企業との折衝を本人が担うのか、委託元が担うのかで負担が変わります。
- 返戻金が発生したときの負担:早期離職で求人企業へ返金が生じた場合、支払済みの報酬をどう精算するか。ここを決めずに始めると必ずもめます。返戻金制度そのものの設計は手数料の記事を参照してください。
- 支払いのタイミング:入社時点なのか、求人企業からの入金後なのかを契約書に明記します。後述するフリーランス法の支払期日の規定にも関わります。
なお、求職者から金銭を受け取る形は取れません。有料職業紹介事業者は求職者から手数料を徴収してはならず(職業安定法32条の3第2項)、同条1項は法令が認める場合を除き職業紹介に関しいかなる名義でも実費その他の手数料または報酬を受けてはならないと定めています。「相談料」「サポート料」といった名称に変えても規制を外れる余地はありません。
業務委託で紹介業務に関わるときの法令上の整理
ここが本記事でもっとも重要な部分です。業務委託で人材紹介に関わる個人は、誰の許可のもとで紹介行為をしているのか。この問いに答えられないまま契約すると、無許可営業(職業安定法30条1項違反)や名義貸し(同法32条の10違反)の側に踏み込む可能性があります。
許可が要るのは「事業として行う」場合
出発点は定義です。職業安定法4条1項は「職業紹介」を求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあつせんすることと定めています。そして同法30条1項は、有料の職業紹介事業を行おうとする者に厚生労働大臣の許可を求めています。許可が必要になるのは「職業紹介」を「事業として」「有料で」行う場合であり、この3つがそろって初めて許可の話になります。
「事業として」の意味は行政の解釈に示されています。厚生労働省の業務運営要領は、職業紹介を事業として行うこととは一定の目的をもって同種の行為を反復継続的に遂行することをいい、1回限りの行為であったとしても反復継続の意思を持って行えば事業性があるとし、逆に形式的に繰り返し行われたとしても、すべて受動的、偶発的行為が継続した結果であって反復継続の意思を持って行われていなければ、事業性は認められないとしています(出典: 厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」令和8年7月31日から適用・第1の1(3)②)。
自分がしていることに許可が要るかを判定する順序
- Q1求人と求職の申込みを受け、求人者と求職者の間の雇用関係の成立をあっせんしているか
根拠:職業安定法4条1項の「職業紹介」の定義
いいえの場合:あっせんに当たらない(求人情報を届けるだけ等)なら、職業紹介ではない
- Q2それを「事業」として、つまり反復継続の意思をもって行っているか
根拠:業務運営要領 第1の1(3)②
いいえの場合:受動的・偶発的な1回限りの行為で、反復継続の意思がなければ事業性は認められない
- Q3その職業紹介に関して、対価を受けているか
根拠:職業安定法4条2項・3項/業務運営要領 第1の2(2)
いいえの場合:いかなる名義でも対価を受けないなら無料職業紹介事業(別区分・33条)
3つすべてに「はい」なら、それは有料職業紹介事業にあたる
行っているのが自分自身の事業なら、自分が厚生労働大臣の許可を受ける必要がある(職業安定法30条1項)。許可を受けた事業者の事業として、その事業者の内部で行うのであれば、許可はその事業者が持つ。どちらなのかは契約書の題名ではなく実態で判断される。
成果連動の「委託費」は対価とみなされうる
フルコミッションの業務委託で見落とされやすいのが、報酬の呼び名では規制を外れないという点です。同じ業務運営要領は、無料職業紹介事業との線引きを説明する箇所で、委託費等を徴収して職業紹介事業を行うケースであって、委託費等の額が紹介実績または雇用関係の成立実績により変動する方法により支払われているものや、委託事業の内容が明らかに職業紹介事業のみであると判断できるものについては「有料職業紹介事業」を行っているものと判断されるとしています(出典: 同要領 第1の2(2))。
成果連動であること自体が、その委託費を職業紹介の対価と評価する方向に働くということです。フルコミッションはまさに成果連動の報酬なので、この判断の射程に入りやすい形態だと理解しておく必要があります。
名義貸しの禁止という線
では、許可を持つ紹介会社と業務委託契約を結べば、個人はその会社の許可のもとで紹介できるのか。ここに条文上の線が引かれています。職業安定法32条の10は「有料職業紹介事業者は、自己の名義をもつて、他人に有料の職業紹介事業を行わせてはならない」と定めています(名義貸しの禁止)。違反した場合は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金で、無許可営業と同じ法定刑です(同法64条3号。出典: e-Gov法令検索「職業安定法」)。
つまり、許可を持つ会社が名義だけを貸して、実質的には個人が独立して自分の事業を回している形は、許可の有無にかかわらず禁じられています。逆に、その会社の事業として、会社の管理と責任のもとで業務を担っているのであれば、事業を行っているのは会社であり、許可は会社が持っているという整理になります。
では実際の契約がどちらに当たるのかは、契約書の題名ではなく実態で決まります。求人・求職の申込みを受理するのは誰か、求人企業との契約主体と請求主体は誰か、個人情報を管理しているのは誰か、苦情が来たときに責任を負うのは誰か——こうした点の積み重ねで判断されるため、一般論として「業務委託なら適法」「業務委託なら違法」と言い切ることはできません。スキームを組む前に、管轄の都道府県労働局または弁護士に、契約書と実際の運用の両方を示して確認してください。許可制度そのものと無許可営業の罰則は人材紹介に「免許」は必要?で、運営中に踏みやすい違反類型と行政処分の実際は職業安定法違反とは|紹介会社が踏みやすい違反類型と罰則・お祝い金規制で扱っています。
「業務委託」でも労働者と判断されることがある
職業安定法とは別に、もうひとつ実態で判断される論点があります。労働基準法上の「労働者」にあたるかどうかは、契約の名称が業務委託であるかどうかでは決まりません。労働基準法9条は労働者を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しており、この判断は実態に即して行われます。
判断の枠組みは厚生労働省の労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日「労働基準法の『労働者』の判断基準について」)に示されています。報告は、雇用契約、請負契約といった形式的な契約形式のいかんにかかわらず、実質的な使用従属性を、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素をも勘案して総合的に判断する必要があるとし、次の要素を挙げています。
| 判断要素 | 内容 | 労働者性を強める向き |
|---|---|---|
| 諾否の自由の有無 | 具体的な仕事の依頼・業務従事の指示等を拒否する自由があるか | 拒否できない場合は指揮監督関係を推認させる重要な要素 |
| 業務遂行上の指揮監督 | 業務の内容および遂行方法について具体的な指揮命令を受けているか | 受けていれば指揮監督関係の基本的かつ重要な要素。通常注文者が行う程度の指示にとどまるなら該当しない |
| 拘束性の有無 | 勤務場所および勤務時間が指定され、管理されているか | 指定・管理されていれば一般に指揮監督関係の基本的な要素 |
| 代替性の有無 | 本人に代わって他の者が労務を提供することや、補助者を使うことが認められているか | 代替性が認められている場合は指揮監督関係を否定する要素(=労働者性を弱める) |
| 報酬の労務対償性 | 報酬が時間給を基礎に計算される、欠勤で控除される、残業に別途手当が出る等 | そうした性格があれば使用従属性を補強する |
| 事業者性・専属性 | 機械器具の負担、報酬額の水準、他社の業務に従事できるか、報酬に固定給部分があるか | 自らの計算と危険負担で事業を行っている性格が強いほど労働者性は弱まる |
人材紹介のフルコミッション業務委託は、この表の上3行に触れやすいという特徴があります。委託元のオフィスに毎日出社して所定の時間に業務し、担当する求職者を委託元が割り当て、日報や朝礼で進捗管理を受けている——そうした運用は、契約書が業務委託であっても指揮監督下の労働と評価される方向に働きます。労働者と判断されれば、労働時間規制・割増賃金・解雇規制・社会保険といった義務がさかのぼって問題になります。
ただし、これらの要素は総合判断されるものであり、いくつか当てはまるからただちに労働者だと確定するものではありません。報告自身が「限界的事例については、専属度、収入額等の諸要素をも考慮して、総合判断することによって労働者性の有無を判断せざるを得ない」と述べています。個別の判断は労働基準監督署や司法が行うため、懸念がある場合は労働基準監督署または弁護士・社会保険労務士に相談してください。
委託する側にはフリーランス法の義務がかかる
紹介会社の側から見ると、個人に業務委託をする時点でフリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律・令和6年11月1日施行)の対象になります。同法2条1項は「特定受託事業者」を業務委託の相手方である事業者のうち個人であって、従業員を使用しないものなどと定義しており、フルコミッションの業務委託パートナーは通常これに該当します。
業務委託をした場合、直ちに、給付の内容・報酬の額・支払期日その他の事項を書面または電磁的方法により明示しなければなりません(同法3条1項)。また従業員を使用する事業者が委託する場合、報酬の支払期日は給付を受領した日(役務の提供を受けた日)から起算して60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内に定めなければならず、期日が定められなかったときは受領日が支払期日とみなされます(同法4条1項・2項。出典: e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)。
人材紹介の成功報酬は「入社後、求人企業からの入金後に支払う」という運用が一般的ですが、この60日の起算点をどこに置くかは、契約で役務の提供をどう定義するかによって変わります。求人企業からの入金を待つ設計が同条に照らして問題ないかは、契約書の書きぶりに依存するため、業務委託パートナーを置く前に確認しておくべき論点です。
副業で人材紹介はできるか
「会社員のまま副業で人材紹介をしたい」という問いは、勤務先との関係と職業安定法上の位置づけの2つに分けて考えると整理できます。前者は就業規則の問題、後者はここまで見てきた許可の問題です。
勤務先との関係:原則は自由、制限は限定的
厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定・令和4年7月改定)は、副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許されるのは、次の場合と解されているとしています。
- ① 労務提供上の支障がある場合:本業の業務に支障が出る働き方になっている場合。
- ② 業務上の秘密が漏洩する場合:本業で知り得た秘密が副業先に流れる恐れがある場合。
- ③ 競業により自社の利益が害される場合:本業と競合する事業を行い、自社の利益を損なう場合。
- ④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合:副業の内容が本業の会社の信用に関わる場合。
同ガイドラインは、厚生労働省が平成30年1月に改定したモデル就業規則においても「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」とされていることを挙げています(出典: 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」令和4年7月改定)。
人材紹介の副業で現実に問題になりやすいのは③です。本業が人材業界である場合、副業の人材紹介は競業に当たる可能性が高くなります。また本業で知り得た求職者情報や求人情報を副業に使えば②にも触れます。まず自社の就業規則を確認し、届出・許可の手続きがあるならそれに従うのが出発点です。
職業安定法上の位置づけ:副業だから緩くなるわけではない
副業であることを理由に許可が不要になる規定はありません。前の見出しで見た判定は、本業か副業かにかかわらず同じように適用されます。自ら反復継続の意思をもって職業紹介を行い、その対価を受けるなら、それは有料職業紹介事業です。「小規模だから」「月に数件だから」という理由で外れるものではなく、業務運営要領も1回限りの行為であっても反復継続の意思があれば事業性があるとしています。
現実的な選択肢は、許可を持つ紹介会社の業務委託パートナーとして、その会社の事業の中で業務を担う形か、自ら許可を取得して事業として行う形のいずれかになります。前者は名義貸しの線を越えないこと、後者は財産的基礎を含む許可要件を満たすことが条件です。
税務:事業所得か雑所得かは規模と帳簿で決まる
副業で得た報酬の税務上の扱いも押さえておきます。国税庁の所得税基本通達35-2は、事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するとし、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合を除く)には、業務に係る雑所得に該当するとしています(出典: 国税庁「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」令和4年10月7日)。
同通達の解説は、取引を帳簿書類に記録し、かつ保存している場合には、一般的に営利性・継続性・企画遂行性を有し、社会通念での判定において事業所得に区分される場合が多いと述べています。ただし収入金額が例年300万円以下で主たる収入に対する割合が10%未満といった場合や、例年赤字で赤字解消の取組を実施していない場合には、事業と認められるかどうかを個別に判断するとされています。副業として始めるなら、帳簿を付けて保存することが実務上の分かれ目になります。
向いている人と、稼働しないパターン
制度面を押さえたうえで、実務としてフルコミッションが成立するかどうかを見ます。人材紹介は在庫も設備も要らない事業ですが、成果が出るまでに時間差があるという性質があります。求職者と出会ってから入社し、返戻期間を越えて報酬が確定するまで、数か月かかることは珍しくありません。固定給がない働き方では、この時間差をどう越えるかがそのまま生存条件になります。
稼働しないのは供給源が無い場合
フルコミッションが動かない典型は、求人か求職者のどちらかの供給源を持たないまま始めるケースです。契約形態がどうであれ、紹介できる求人がなければ求職者を運べず、会える求職者がいなければ求人を埋められません。委託元から両方を渡される前提の契約なら、渡される量と質が収入をほぼ決めます。逆に自分で開拓する前提なら、開拓が立ち上がるまでの無収入期間を見込む必要があります。
- 前職の人脈を「持ち出せる」と考えている:前職で知り得た求職者情報・求人情報は前職の会社が管理する個人情報・営業秘密です。持ち出しは職業安定法上の個人情報の取扱いだけでなく、退職時の誓約や不正競争防止法にも関わります。人脈は「連絡が取れる関係」であって、データではありません。
- 供給を1社に依存している:委託元1社からしか案件が来ない状態は、収入が相手の都合で変動します。労働者性の判断でも専属性は考慮要素になるため、契約と実態の両面で確認が要ります。
- 返戻リスクの負担を決めていない:早期離職で返金が生じたとき、支払済みの報酬をどう戻すのか。決めていないと、入金済みの金額が後から目減りします。
- 記録を残していない:誰にいつ何を紹介したかの記録が個人の頭とメールにしか無いと、案件が重なった時点で取りこぼしが始まります。委託元の管理下にある場合でも、自分の稼働と成果の記録は自分で持っておく必要があります。
向いているのは領域が決まっている人
逆に成立しやすいのは、扱う領域が具体的に決まっている人です。特定の職種・業界・年収帯に絞れていれば、求人企業に対しても求職者に対しても説明が具体的になり、限られた時間で当たりを引く確率が上がります。フルコミッションは投下できる時間が有限なので、汎用的に構えるより狭く深く構えるほうが機能します。
独立に進む場合の次の一歩
業務委託から自分の事業へ進む場合、順序は決まっています。許可を取ることが先で、営業はその後です。有料職業紹介事業の許可は申請から取得まで時間がかかり、厚生労働省のパンフレットは事業開始予定時期のおおむね2〜3か月前までの申請を求めています。法人設立や要件整備の期間を含めると、構想から営業開始まで半年程度を見込むのが現実的です。
- 1. 許可要件を満たせるかを先に確認する:基準資産500万円以上・現金預貯金150万円以上という財産的基礎が最初の関門です。要件の全体像は開業ガイドにまとめています。
- 2. 職業紹介責任者の講習を押さえる:講習には開催日程があり、ここがスケジュールの制約になりやすい部分です。1人で始める場合は代表自身が受講します。
- 3. 扱う領域と手数料の考え方を決める:届出制手数料を選ぶ場合は手数料表を届け出ます。料率の設計は手数料の記事を参照してください。
- 4. 記録の置き場所を最初に決める:求職者・求人・選考の記録は、開業初日から溜まり始めます。後から移すほうが手間がかかるため、最初に決めておくのが実務的です。
4番目について補足します。開業した年度から、毎年4月30日までに職業紹介事業報告書を提出する義務が発生します。日々の記録が散っていると、1年分をさかのぼって集計する作業がここで発生します。Emproは人材紹介に特化したCRM/MAとして、求職者・求人・選考ステータスを同じ基盤の上で管理できるよう設計しています(対応範囲は機能一覧を参照)。1人・少人数で始める場合の費用感は料金プランにまとめています。
許可要件から申請、開業後の年次義務までを一続きの手順として読むなら有料職業紹介事業とは|許可要件・申請手続き・年次義務と開業までの全ステップが入口です。他社と組んで案件を融通する形を検討しているなら送客とは|人材紹介における送客の仕組み・手数料・法令上のルールも併せて確認してください。
よくある質問
Q. フルコミッションとは何ですか?
A. フルコミッションとは、固定給がなく、報酬の全額が成果に連動して決まる完全歩合制の働き方をいいます。法令上の用語ではなく、報酬の決め方を表す実務上の呼び名です。「固定給+インセンティブ」との違いは基本給の有無だけで、フルコミッションには基本給がありません。人材紹介では、雇用された歩合社員・業務委託パートナー・自ら許可を取って開業の3形態がこの言葉で語られます。
Q. 人材紹介を副業でできますか?
A. 勤務先の就業規則と、職業安定法上の位置づけの両方を満たせば可能です。厚生労働省のガイドラインは、労働時間以外の時間の利用は基本的に労働者の自由で、制限が許されるのは労務提供上の支障・秘密漏洩・競業・信用毀損の場合と解されているとしています。一方、副業だからといって許可が不要になる規定はありません。自ら反復継続の意思をもって有料で職業紹介を行うなら、厚生労働大臣の許可が必要です。
Q. 業務委託で人材紹介をするのに許可は必要ですか?
A. 自ら事業として行うのであれば必要です。職業安定法30条1項の許可は事業者に対して出るもので、契約書の題名が業務委託かどうかでは決まりません。許可を持つ会社の事業として、その会社の管理と責任のもとで業務を担う形であれば許可は会社が持ちます。ただし同法32条の10は、有料職業紹介事業者が自己の名義をもって他人に事業を行わせること(名義貸し)を禁じており、違反は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。判断は実態によるため、労働局または弁護士に確認してください。
Q. フルコミッションの報酬相場はどのくらいですか?
A. 配分割合について公表された統計や相場データは確認できませんでした。当事者間の契約で決まる金額であり、公的に集計されている性質のものではありません。確かなのは原資のほうで、人材紹介の手数料相場は理論年収の30〜35%、厚生労働省の集計では常用就職1件あたりの手数料が約103万円です(令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果・速報)。この金額をどう分けるかが配分の話になります。
Q. 雇用契約のまま完全歩合制にできますか?
A. できません。労働基準法27条は、出来高払制その他の請負制で使用する労働者について、使用者は労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならないと定めています。加えて最低賃金法4条1項により、最低賃金額以上の賃金を支払う義務があります。求人票に「フルコミッション」とあっても、雇用契約であれば保障給と最低賃金が下限として効きます。本来の完全歩合制は業務委託契約を指しているのが実態です。
